わんみんのホームへ戻る

# エッセイみたいな。 # 書評とか。

『ルワンダ中央銀行総裁日記』に学ぶ経営論

Ritsuki

2022/02/21

『ルワンダ中央銀行総裁日記』という本の帯には、こう書かれている。

「46歳にしてアフリカの小国ルワンダの中央銀行総裁に突然任命された日銀マンが悪戦苦闘しながら超赤字国家の経済を再建しつつ国民の生活環境を向上させた嘘のような実話。」

これだけで、多分読みたくなった人は多いのではないか。

このキャッチコピーみたいなタイトルをこのroomsの記事にもつけたかったのだが、なぜか陳腐なビジネス書みたいになってしまった。

かといってキャッチコピーだけ紹介してroomsを切り上げるわけにもいかないので、これからしばしの間だらだらとお付き合いください。

本書は1972年に初版が発行され、すでに著者の服部氏は亡くなっている。

あらすじは、先に挙げた帯のキャッチコピーの通り。そこに出てくる「日銀マン」というのが、服部氏のことである。

この本の終始一貫した感想は「服部さんすげー、めっちゃ優秀じゃん」なのだが、それはまえがきの一文で垣間見れる。

「私は、過去は将来への準備以外には意味はなく、過去を語るようになったら、それは将来への意欲を失った時だ、と考えている。そして自分のした仕事について書くことは、自分の進歩の墓標を書くような気がするのである。」

これだけの業績(ルワンダの経済再建)を残していながら、こんな謙虚に将来を見ていられるか普通?

この時点で、あ、この人が書く本おもしろそうだわ、となった。

そして、このまえがきの続きには、過去を語るのが好きではない服部氏がなぜ自分の過去を本の形で書こうと思ったのかについて述べられている。

さて、第1章から読み進めていくと、ルワンダ中央銀行総裁に任命された経緯から始まり、なぜ一銀行の総裁が国家の経済再建に携わるようになったのか、また、どのような改革を行い、どういった発展(失敗)を遂げたのかについて記されている。

ルワンダは、長らくアフリカの貧困国という地位にあり、技術援助で入国する外国人たちはそのほとんどがルワンダ国民に対して、文化的・技術的未成熟な存在で、商業すらままならないといった認識(偏見)をもっていた。

それに対して、服部氏は、これまでのデータや数字のみにとらわれず、ルワンダ国民に注目した。

着任直後の大統領との面会で、大統領の描く理想図を第一に聞き取り、そして、またその姿勢に感銘を受けた大統領から「私は今日あなたからお話を聞いて本当によかった」と直々に「ルワンダ経済再建計画」の立案を頼まれることになる。

こうして、経済再建計画がスタートする。

その6年間にわたる活動は およそ300ページに凝縮されている。

その300ページの中で、いや、6年間の改革の中で、(もしかすると服部氏の生き方を通じて)彼の決断の根幹に据えられているのは、常に「人」である。

ルワンダでも銀行内の派閥を収め、行員たちの苦情をおさえ、仕事に向かわせる手法は、常に人ありきで行われていた。

決して驕らず、客観的な立場から状況を精査する姿勢に尊敬を覚えた。

服部氏が大統領に再建計画を頼まれたのは着任当初の3月。しかし、実際に服部氏が再建計画を立案し始めるのは7月である。

このおよそ4ヶ月もの間、服部氏は何をしていたのか。

決して、怠惰な大学生のように、レポートを先延ばし先延ばしにし、期限ギリギリになってあわててコピペとばれないように原稿を完成させたわけではない。

彼は、4ヶ月もの間「ルワンダ人を知る」ことに専任したのである。

「私はつとめて人に会った。銀行に用件でくる人からも、できるだけその人のルワンダに関する知識を吸収するように心がけたが、それだけでは不十分であるので、こちらからでかけて話も聞いた。銀行の執務時間は殆ど人と会うことで費され、銀行の仕事は家でやり、翌日出勤してクンラツ君に書類を渡し、当日の仕事を頼み、行内を一時間巡視してまた人と会うという生活であった。」

そうして、ルワンダ経済の現動向や、ルワンダ人の趣味嗜好、さらには「ルワンダ人が怠け者かどうか」まで徹底的に調べ上げ、経済再建計画に着手する準備を固めたのである。

こうして作成された「経済再建計画」は服部氏のもとで実行された。

具体的な成功事例や失敗事例は本書を読んでもらうとして、ここでは1つだけ痛快な例を紹介しておこう。

ルワンダでは、商業といったらもっぱら外国人商人によって執り行われていた。そのため、服部氏はルワンダ人商人を積極的に育てるような制度を作り上げ、外国人商人との競争を促すことにした。

それをうけ、外国人商人が服部氏のもとへやってきて、「今までわれわれはルワンダ人商人を育てようと努力してきました。しかし彼らにはまったく商業的才能がないことが経験でわかりました。」という。「従って、このままではルワンダ人商人はみな潰れてしまいます」

「それは困ったことだ。」服部氏はそう言いつつも、外国人商人のルワンダ人への評価が甘いだけと感じ、彼らを軽く受け流す。「しかしなんといっても、ルワンダはルワンダ人の国だから、今後ともルワンダ人商人を育てる努力はつづけてほしい」

そうして、2年後、まさに服部氏の予測通り、ルワンダ人商人は2倍以上になり、尋ねてきた外国人商人の4分の3がルワンダから去っていくことになるのである。

ルワンダ人を徹底的に観察し、彼らの能力を適正に判断したからこその業績である。

このようにして、服部氏は「人」を観察し、来る日もくる日もルワンダ人と接し、ルワンダ経済再建計画を進めていくのである。

以上が、僕がこの記事に「経営論」とつけた理由である。

「人」に注目した経済再建計画の一部始終を本書ではみることができる。

そしてそこには、服部氏の組織(国ほど大きい組織はないだろう)を主導していく力・エッセンスがあふれている。

ぜひ、本書を読んで、本書の最後の一文の感慨深さを体感してほしい。

適当にまとめました。