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# 書評とか。

『日本語の謎を解く』書評

Ritsuki

2021/04/11

長年、日本人をやってきたが、正しく日本語を使いこなせている自信はない。そのうえ、日本語のことを正しく認識できている自信もない。特に最近はTwitterとか、LINEとかで、短い簡単な文(文とも言えないような単語の羅列)で済ませてしまう場合が多くなって、ますます”正しい日本語”になっていないのではないかとか感じる。

そんな日本人に対して、日本語とはそもそも何なのかを改めて問うのが本書である。本書では、日本語の起源から、音声・語彙・文法、そして、日本語の変化、言語と文化にまで話が展開される。著者はほぼ独学で7ヶ国語を習得した言語学専門の先生である。生徒からの質問に答えるという形式で、言語学について幅広く解説している1冊となっている。

最初の1段落で、僕は「日本人をやってきた」と書いた。いつかの新聞の社説かどこかで見た覚えがあるが、最近は(職業)を「やる」という表現が増えてきていると書かれていた。「一応」とつけることも多い。職業をきかれて、「一応サラリーマンやってます。」「主婦やってます。」と答える。「主婦です」と答えるのでいいのではないか。言語学の観点からこの用法を説明するとするならば、「婉曲表現」となるのだろうか。僕は専門家ではないから詳しいところはわからないが、サラリーマンを職業としていることに気が引けて、謙遜して、一歩引いた状況として自分の職業を見ているのではないか。そう思う。つまり、サラリーマンとして働いている自分を別の場所から客観視して、サラリーマンを「やる」と言っているのだ。野球を「やる」のと同じように。

と、僕自身の意見を書いてみたが、何が言いたいかというと、単語一つ、文節一つとってみてもいくらでも研究の余地があるということだ。例として第1段落から、もう2点掘り下げてみる。

「正しく日本語を使いこなせている自信はない」とあるが、この「自信はない」の「は」を「が」に変えて、「正しく日本語を使いこなせている自信がない」ではいけないのか。「は」と「が」の違い。これは、本書で数ページにわたって解説されている疑問であるが、簡単にいうと、旧情報か新情報かの意識の違いである。例えば、「雨が降る」と、「雨は降る」。日本人だとこの微妙な違いもニュアンスで理解しているのだろうが、この違いを外国人に説明しようとすればどうなるだろうか。考えると深い。

また、”正しい日本語”とは何なのかという疑問もある。本書で「日本語は変化している」とされている。本書の推薦文にも「日本語は生きている。つまり動的平衡の状態にある」と記されている。もしかすると、いずれTwitterやLINEなどの短文が正しい日本語になるかもしれない。要するに、言語の正しさは人々の認知の問題だろう。論理学的な正しさでもなく、倫理的な正しさでもなく、多数決による正しさ。そんなものなのではないかと思う。

それぞれ、詳しい解説などは本書を読んでいただきたいが、言語はとても奥深いことがわかる。普段、浴びるほど読み、聞き、話している日本語でも知らないことはたくさんある。僕は常々、「英語を学習する際には訳すのではなく、感覚的に読んでいくべきだ」と訴えているが、本書を読んで、その訴えを強くした。日本語は生きている。そして、英語も生きている。それぞれが言語であり、それぞれに文化があり、深みがある。その文化と深みを捨てるような訳はすべきではない。そう思ったからだ。

日本語はただの言語である。でも、ただの言語だからこそ、面白みがある。いつもよりちょっとだけ大切に使っていこうと感じた。

 

日本語の謎を解く 最新言語学Q&A』橋本陽介(新潮選書)

適当にまとめました。